いつかの君と握手

「お、おう。坂井の息子が張り切って支度しとったぞ。
しかしお前、アレに乗ってどこ行くんだ」

「彼女、美弥緒ちゃんを連れていかないといけない場所があるんです」

「それは聞いたが、しかしこんなに疲れてるのに、時間の調整はできんのかい?
できんのなら、そっちの坊主はワシが見ていよう。置いていくんだろ?」

「気遣いは嬉しいんですけど、祈も必要なので連れて行きます」

「む……」


そっか。
今朝の話だとイノリの存在も必要だって言ってたっけ。

しかし、怪我してる子を連れて行ってもいいものなんだろうか。
無理させたらいけないよな。


「三津、行くぞ」

「うっす。柚葉、お前救急箱用意してこい。こいつら足挫いてるんだ」

「わかった!」


柚葉さんは身を翻して走っていった。
歩き出した加賀父の背中に声をかけた。


「あ、あの、イノリは怪我してます。だからあの、無理に連れて行ったら……」

「自分の行動のせいで君の人生に大きな空洞をあけた、なんてことになったら、この子は絶対に後悔する。
だから、無理をさせるのは仕方ないことなんだ」

「で、でも……」

「わかるよな、祈? 美弥緒ちゃんを悲しませたくないなら、少し我慢しろ」

「……うん」


声音を和らげた加賀父の問いに、イノリがこっくりと頷いた。


「おれのせいでミャオが泣くのはいやだ。がまんくらいする」

「よし、偉い。というわけで、連れていきます」

「そうか。おい、坊主。と志津子似の嬢ちゃん」


助かってよかったの、と笑う織部のじいさんに見送られて、寺の表へと回った。


と、聞きなれない重低音が辺りに響いていた。


「美弥緒ちゃん、アレに乗って!」

「アレって…………、え?」


指差された先、外灯の下に真っ黒い車があった。
車高の低い、地面を這うような幅広のそれは、酷く大きなエンジン音をたてている。

ええと? なんだ、あの車。


「渋いよなー……。オレ、好きだったんだ。デ・トマソ・パンテーラ」


見たことのない形の車を見ていると、三津がうっとりしたように呟いた。


「は? でとまと?」


なんだって? 初耳の単語なんですけど。


「デ・トマソ・パンテーラ。イタリア車なんだけど、エンジンはアメリカのごついの積んでるんだ。
高校のころ雑誌で見てさ、憧れてたんだよなー。まさか風間さんがこれのオーナーだとは思わなかったよなー」

「ああ、こっちに置いてたからな。
なかなか帰ってこれないから、近所の奴に手入れを頼みっぱなしだったし」