いつかの君と握手

「そ、そんな。あたしが迷ったからだし、イノリのせいなんかじゃないよ?」

「いや、イノリの責任だよ。美弥緒ちゃんは怪我してでもお前を探して傍にいてくれただろ?
そんな美弥緒ちゃんを、お前の都合で家に帰られなくしていいか? だめだろ? だから今こうして父さんたちは急いでるんだ」

「そんな……」

「こら、今はちゃんと足元照らせ、イノリ」


あたしとイノリは懐中電灯を持たされており、揺れる背中で必死に道行を照らしていた。
話にショックを受けたイノリは懐中電灯をぼんやり握っており、光があらぬ方向に飛んでいた。


「イノリ、気にしなくて大丈夫だよ!」


先を行く加賀父の背中に張り付くイノリに声をかけたが、返事はなかった。
もう、少しソフトに説明してくれたらいいのに、加賀父は。


しかし。
大丈夫ってことは、ホントに間に合うのだろうか?
でも4時はすでに過ぎている。

行きの道のりを思い出せば、不可能のように感じた。


「しっかり掴まってろよ、みーちゃん!」


あたしの中に湧いた不安をかき消すように、三津が叫んだ。


思いのほか、柳音寺のすぐ近くにいたようだ。
ざ。と木々の枝を払うと、建物の姿を捉えた。

どうやら寺の裏であるらしい。
見下ろす位置にある、特徴的な屋根をみて、ほっとする。

三津が連絡を入れていたお陰か、近づくと柚葉さんや織部のじいさんの姿を見つけられた。


「みーちゃん、祈くん! よかったぁ」


迎えてくれた柚葉さんのメイクは剥げ落ちており、ちょんぼり眉になっていた。
目元は真っ黒になっていて、頬には黒い涙の跡。


「すみません。イノリを見つけたのに、帰り道がわかんなくなっちゃって」

「無事だったからいいの! ああ、よかったぁぁぁ」


パンダのような瞳に、ぶわ、と新しい涙が溢れた。


「ご、ごめんなさい」


イノリが申し訳なさそうに頭を下げた。
柚葉さんがぶんぶんと首を横に振る。


「もういいの! お父さんにもう怒られたんでしょう? だからもういいの!」

「先生。用意できてますか?」


おいおいと泣く柚葉さんの後ろにいた織部のじいさんに、加賀父が訊いた。