「ありがとよ。でも必ず、そっちの彼女つきでな」

「ほう? オレだけじゃ不満ってか」

「男だけ来ても全然楽しくないわ。まあいい。気をつけてな」

「はあい。じゃ、また!」


じいさんに手を振りながら、心地よい家を後にした。


「おもしろいじいさんだったなー」

「ほんと。あ、そういえば、志津子さんってどんな顔してたんだろ。写真見せてもらいたかったなー」

「あ、あたしも見たかったです。でもきっと、地味な日本人顔ですよ」

「あはは、みーちゃんてば、もう少し自己評価を高くしろよー。自分で言っててむなしくななんないか?」


三津が頭をぐりぐりと撫でてくる。
む。金吾様に撫でられた後なんだぞ。触るでないわ。


「別に。だって本当のことだし」

「あら、みーちゃん。そんな消極的な言い方はだめだよ」


柚葉さんが綺麗なアーチ状の眉をきゅ、と顰めた。


「アタシだって素顔は地味だけど、ほら、今はすんごーく綺麗でしょ?
見た目なんて努力次第でどーにでもなるもんだよ」


いやいやいや。やっぱり土台とか基礎とかって大事じゃないっすか。
家建てるときも、基礎が大事だし。
相撲も下半身が大事だし、ってそれはちょっと違うか?


「あー。信用してない顔だ。
ホントだよ? 手をかけたら大抵の子はかわいく綺麗になるもんよ。
それに、みーちゃんみたいな特徴のない顔って化粧栄えしやすいし」


ああ、そういう言い方のほうが受け入れやすいです。

あれだ、豆腐みたいな、そういうやつでしょ。
シンプルで地味な食材だけど、手をかけたらあら不思議、メイン料理に変身! みたいな。
なるほどね、あたしって豆腐女だったのね。

って、いやいやいやいや。
あたしがメインディッシュって、そりゃ無理だろ。
具沢山の豚汁にこっそり浮いてるくらいなら、豆腐でもいいけど


「柚葉さんの言ってくれることは嬉しいんですけど、急には納得はできないですねー」

「む、意固地ね。よし、今度アタシが腕ふるってあげるからね。見てなさいよー」

「あはは、楽しみにしときます」


歩いていると、前方から誰か駆けてくるのが見えた。


「あれ、風間さんじゃね?」

「あ、ほんとだ。風間さーん!」


加賀父は一人だった。
イノリは寺に置いてきたのだろうか。


「い、祈は!?」

「は?」


顔色を失った加賀父は、息を整えながらあたしたちに重ねて訊いた。


「祈、一緒じゃない、か?」