いつかの君と握手

「はあ、空気、ですか」


自分の体を見下ろす。
何の変哲もない体だけどな。
深呼吸してみても、別段変わったところはない。

にしても、三津の言う通り、この人って本当に色々見える人なんだなあ。
すごいなー。あたしと眼球の造りが違ってるんだろうか。
いや、やっぱり特別な力ってやつ?

心霊体験談とか、スピリチュアル系な話は不確かすぎて恐怖を感じていたけど、あたしが体感できないだけで、実際にあるものなんだなー。
まあ、幽霊なんていうものには、一生関わりあいたくないですけども。
あれだけは、ダメだ。

尊敬の眼差しで見つめるあたしに、加賀父は説明を続けてくれた。


「空間が歪んでるって言ったほうが分かりやすいのかな。とにかく、まだきみは元の時代と繋がってるんだ。条件さえ合えば帰れるよ」


最後の力強い言葉に安心する。
もしかしたらあたしが知らないだけで、こんな事態に陥った人が他にもいるのかなー。
いるんだろうなー。
加賀父のこのあっさりとした様子だと、数人は知っていそうじゃないか。
ああ、あたしが無知なだけで、世の中って色んなことがあるんだなー。


「まあ、俺もこんな話初耳だから、断言はできないんだけどねー」


あはは、と楽観的な笑い声に、上昇中だった気分が突き落とされた。


「でもまあ、条件を揃えればどうにかなると思うけどね」

「じょ、条件ですか?」


与えられる言葉はまたもやイカロスの羽かもしんない、と怯えたあたしに、加賀父は人差し指を立ててみせた。


「俺が思うに、1つは祈」


イノリかー。
あたしもそれは分かる。どちらの時代でも、イノリが傍にいたもんね。
キーパーソンってやつね。
次に、中指も天を向く。


「2つめは、時間」

「時間、ですか?」

「そう。日にちのズレが気になるんだ。
美弥緒ちゃんがいたのは2012年の7月12日、だったんだよね。
それが、2003年の7月10日にタイムスリップした。
年度は置いておいたとして、日にちのみを見たら2日、逆行してる。
時間も、タイムスリップしても一緒だったんだよね」


うんうん、と頷いた。
ケータイの時刻を変えずに済んだもんね。


「こちらの時代に来た、正確な時間は分からない?」

「はい。でも7時45分前後じゃないかと思います。イノリとぶつかって少し会話をして、その後にケータイを見たら51、2分だったから」

「なるほどね。推測の域を出ないんだけど、明日、7月14日の7時45分前後が怪しいと思う」

「ほうほう」


具体的な内容になって、つい身を乗り出してしまう。
次は、薬指。


「3つめは、場所。きみとイノリが出会った場所」

「K駅前通りのバス停、ですか」

「うん。この3つを揃えたらいいと思うんだ」