いつかの君と握手

大澤父は祈の様子を知るためだけに、ここまでやってきたのか。

今はまだ早朝と呼べる時間。
あの街からここまで来るには、一体何時に出発したのだろう。


「せっかく来たのに俺に嫌味言われるだけでさー。来た甲斐がないよね」

「…………」


イノリのことを思い車を走らせたのだろう大澤父のことを思うと、胸が熱くなった。
ああ、こういうのに本当に弱いな、あたしは。
少し潤んでしまった瞳を、ぱちぱちと瞬きしてごまかした。


「美弥緒ちゃんは、いい子だね」

「は?」


ふいに言われ、おまけにぽん、と頭に手を載せられて、思考が止まった。


「いい子だ。祈は女を見る目は確かだな」


よしよし、と撫でられる。


……あの、これってあたしの死へのフラグでしょうか。

金吾様にこんなことをされてしまっては、反動ですんごい不幸が降り注いでくるに違いない。
ああ、きっとあたし死んでしまう。
一生分の運が瞬く間に費やされていくのが体感できる。
うう、しかし我が人生、一片の悔いなし。


「9年後も、祈に彼女として紹介してもらえると嬉しいんだけどな」

「……ハァ?」


なんだって?
現実に引き戻された。


「あのですねー。9年後は残念ながらそんなことにはならないと思います」

「なんで?」


こんな機会はもう二度とないかもしれん。
一生に一度の、金吾様の温かい手の平を有難く享受しつつ、断言した。


「なんで? って。同じクラスには様々な美人さんがいるんですよ。よりどりみどり。
あたしなんか視界にも入んないですよ」

「なんで?」

「いや、だってほら、あたしって特徴ないし、地味ですし。取り立てていいところないですし」

「なんで?」

「だから、人を惹きつけるものがないんですってば、あたしは」

「ええー? なんで?」


うーん、金吾様ってば理解力ないのかね。
あたしの説明を首を傾げながら聞いている様子にため息がでそうになる。

自分を貶めるようなこと言いたくはないが、しかし事実ではあるしな。

だいたい、一般的な男子が美女と地味女を選べと言われたら、どちらをとるかわかりそうなもんじゃないか。


「美弥緒ちゃん、自分をわかってないなあ」

「は?」

「美弥緒ちゃんは魅力的だと思うよ。祈の彼女じゃなければ、俺がもう少し若ければ、口説きたいくらい、なんてな」

「は…………」