いつかの君と握手

「だって祈がさー、俺と話す間もなく寝ちゃったんだもんよ。だから起きてからかな、って思ってた」

「こっちに着いたのは遅い時間だったようだしな。
まあ、別にいい。俺は祈を迎えにきたわけじゃない」

「え。そうなのか?」

「たまには実家に顔を出そうと思っただけだ。もう帰る」

「ふうん?」


加賀父を見ていた大澤父が、あたしに向き直った。
じ、と見つめられて、もじもじしてしまう。

そういう目で見ないでー。美形大人の視線に免疫なんてないんです、あたし。


「名前を聞いてなかったね。教えてもらっても?」

「あ。茅ヶ崎美弥緒です」


「美弥緒さんか。祈のために、ありがとう」


深く頭を下げられた。


「い、いえ、そんなの」

「息子がお世話になりました。本当は色々話をしたいんだが、仕事を残してきているもので。いつか機会を設けて会いましょう」

「は、はひ……」


にこ、と笑顔を向けられて、心臓が撥ねあがった。
ひー。ときめくじゃないかー。


「じゃあ、その機会は9年後だな」


くっく、と加賀父が笑い、大澤父が眉根を寄せた。


「意味がわからんな」

「9年後に分かるさ。ね、美弥緒ちゃん?」

「え? えーと、まあハイ」


曖昧に答えるあたしに首を傾げたものの、大澤父は腕時計で時間を確認すると、挨拶もそこそこに帰ってしまった。
しかし一旦姿を消したものの、すぐに戻ってきて、


「まともに話してないのなら、今晩も泊めてやれ。少しくらい、時間が必要だろう」


と言った。


「いいのか、それで」

「その代わり、祈を納得させてから帰してくれ。また冒険されたらかなわん」

「ほう? 俺にイヤなこと押し付けるね」

「できないのなら、頼まん」


そう言って、今度こそ帰ってしまった。
足音が遠ざかるのを聞きながら、加賀父が小さく笑った。


「不器用だよなあ、あいつ」

「え?」

「祈のことが気になって、わざわざ来たんだよ。仕事があるのにさ」

「ああ、そういうこと、ですか」