その様を悔しそうに見つめている顔を見ると、胸が痛む。

あー、意地悪なこと言ってんなー、あたし。
完全にイノリの中のオトコのプライドをへし折ったよな。

でも、それでもあたしはあんたの気持ちを真正面から受け止めたつもりなんだよ。

ビームでも出しそうなくらい手をみつめていたイノリが、ばっと顔をあげた。
あ、すんげえ怒ってる。


「ミャオ!」

「あ、はい」

「じゃあ、おれがおっきくなったらいい!?」

「は?」

「おれがミャオよりおっきくなったら、いいんだよね!?」


あたしの手を握り返して、迫るように言う。


「おれ、すぐにおおきくなるから! ミャオよりおっきくなったら、いいんだよねっ?」

「え、えーと、そ、そうなる、かな」


な、なんだ、この情熱は。
そこまで執着するほどの女じゃないだろ、あたしは。
気圧されていると、柚葉さんが言った。


「いいじゃない、みーちゃん。祈くんの熱意を受けてやんなよ」

「え、柚葉さん、それは」

「祈くんがみーちゃんを追い抜くっていったら……そうね、9年くらいかかるんじゃない?
9年後もみーちゃんのこと好きだって祈くんが言ったら、その時は恋愛対象に入れてあげたらどう?」


9年後って……この人はもう。
呆れたあたしだったが、イノリが「おれ、それでいい」と大きな声をあげた。


「それでいい。ミャオ、いい?」


いいも何も。
9年後のあんたはあたしなんか相手にしなくても選り取りみどりなんだぜ?
美女から美少女、望めば誰でも落とせそうだったよ。
こんなことがなければ、あたしのことなんて相手にしないような、さ。


しかしまあ、9年後もあんたがあたしを口説いてくれるっていうのなら、
こちらも本気で相手をしようじゃないか。
なんて、そんなことないんだろうけどね、へへ。


「……いいよ。じゃあ、あたしよりおっきくなったときに、もう一度お願いします」


畏まって、ぺこんと頭を下げた。


「うん、分かった。あ、そうだ。それまではおれ以外の男と仲良くしたらだめだぞ」

「え、なんで」

「当たり前だろ。おれがおおきくなるまで、ミャオも待たなきゃだめだ」

「ぷ。それって結局祈くんがおおきくなるまでは、みーちゃんは彼氏作れないじゃん」


柚葉さんが吹きだした。
ま、彼氏なんてできた試しがないんで、一向に構わないんですけどね。


「いいよ。約束する」

「じゃあ、約束」