いつかの君と握手

この2人、楽しんでやがる。
ぐむむ、と反論の言葉を探していると、コトンと湯のみを置いたイノリがあたしに顔を向けた。


「ミャオ」

「ん? なに、イノリ」

「ミャオはおれのこと、すきじゃないの?」

「は」


今の空気読めよ、小学生!
その質問、今はしたらだめだろ。


「おれはすきだよ」


ちくしょう。かわいい顔して、一人前のこと言ってからに。
真っ直ぐな目で見つめてくるんじゃねえ。


「あー、えーと、それはあれ? 友達みたいな、そういうことだよね?」

「んなわけねーじゃん。なあ、祈? オンナとしてに決まってんじゃんなー」


三津の言葉にこくんと頷くイノリ。


「いかんよー、みーちゃん。そんな言い方で逃げようとしちゃ、ダ・メ☆」

「……三津は柿ピー、食べててくださいますぅ?」


へらへらと笑う三津をギロリと睨む。
いい加減黙ってねえと、あんたの腹にも一発いれるぞ?


「え、えーと。ハイ、ソウシマス」


柚葉さんの背中に隠れた三津からイノリへ、視線を戻す。
少年はまだ、返事を待つように真っ直ぐにあたしを見ていた。


「ミャオ? どうなの?」


うーん、こんなに真剣な顔されると、適当にごまかすことができないよなあ。
あたしもよー、好きよー、ウフフ、なんて言うのは簡単(でもないけど。そんな性格じゃないし)だけど、それはしてはいけないと思う。

いや、気持ちはすごく嬉しいんだけどね。

この1日でそこまで懐いてくれたんだなー、って胸が熱くなりますよ。
好きかと訊かれたらそりゃもう、好き好き大好きですとも。
でもそれはイノリの求めていない『好き』なんだろう。
かわいい弟、そんな意味での好きは、きっとこの子は喜ばない。


しかし。
すげいよ、小学1年生。
この年でオンナを口説くんかい。
全く、あんたには脱帽だわ。

澄んだ双眸に、ふ、と笑いかけた。


「あのさ、イノリ。あんたはあたしにはまだ対象外だ」

「え……?」

「対象外。あたしさ、自分より背の高い男じゃないと、いやなんだよね」


イノリの眉間に深いシワが刻まれる。唇をぎゅうと噛む。


「並んだときには見上げるような人がいい。手の平だってあたしより大きな人がいい。
ね? あんたはまだ対象外なんだよ」


イノリの手をとって、自分の手と重ねた。
もちろんあたしのほうが大きくて、まだぷくぷくした手を覆ってしまう。