あれ……?

 紫音って……本当は優しい……?

 わたしを心配してくれているような声音に、ちょっと驚いた。

 ……でも。

「でも、わたし、加藤先輩が好きなの……!」

 先輩が、ボールを追って走っているのを見るのが好き。

 シュートが上手くいって、チームメイトと笑いながら、もみくちゃになっているところも。

 他にも。

 他にも。

 サッカー部のマネージャーとか、ファンクラブとか、そういった中に入るのはすごく苦手だけど。

 先輩が好きで……

 先輩に気に入られるなら、きっと何でもできる、って思ってた。

「……サッカー部の加藤か?
 噂は、色々聞いている」

 紫音の顔が一瞬引っ込んで、ふ……とわたしが良く知っている村崎先生になったような気がした。

 いつも、静かに。

 穏やかに話しをする、村崎先生に。

「どれも、あまり良い噂では無かったな……守屋。
 男が欲しいなら……オレを……試してみないか?
 オレだって相当薄汚れてはいるが、あんなガキよりは、まだマシだ。
 オレは、あんたが好きだよ?」

「……え?」

 そそそ、それって……!

 思いもかけない言葉に、ぼんっと、顔が赤くなるのがわかる。

 それって先生がわたしに告……?

 わたしが一人でじたばたしていると、村崎先生は、すっと紫音に戻った。

「……冗談だよ、莫迦だな。
 からかい甲斐のある奴。おもしれぇ」

 な、なによっ!

 今度は、わたしの中で何かがぷちっとキレた。