「あの……それも、きっと、ないと……」

 だって。

 確かに『村崎先生』とは授業で顔をあわせていたけど。

 今まで全く関りなんて無かったのに。

 一度も個人的に話をしたことだってない。

「そうなの? 残念ね」

 薫ちゃんは、半分、独り言のように呟いて席を立つ。

「紫音ちゃんに、誰か一人でいいから、好きなヒトができるとあたしは安心なんだけどな。
 アヤネさまに冷たくするのも、いつもの気まぐれかしら?
 彼女は、お金持ちってだけじゃない。
 裏の世界にも顔が利くから、大事にしなくちゃいけないのに、ね。
 ま、いいわ。
 お店の運命も、紫音ちゃんと一蓮托生だけど、あのヒトのことだから、上手くやるでしょう」

 そして、わたしに微笑んだ。

「そろそろ、あたしもホールに出るわね?
 ティパックでよければ、紅茶がそこに……
 そして、お菓子がここにあるから、紫音ちゃんが来るまでお茶してて」

「はい。
 あのその前に……いいですか?」

「なあに?」

「わたしもホールをちょっと覗いてみていいですか?」

 あんなに普段と変わった村崎先生が、一体どんな風にホスト役……しかも、街一番らしい……をやっているのか、すごく興味があったから。

 でも。

 薫ちゃんは、少しだけ寂しそうに微笑んだ。

「お客さまとして入るなら……一万円くらいで入れてあげるけど……
 もし、春陽ちゃんが紫音ちゃんのホスト以外の別な面を知っているなら、やめておいたほうがいいわ。
 本当はホストってね。
 派手だけど、そんなにカッコいいものじゃないのよ。
 できれば……見ないであげて?」