「ヒトにはそれぞれ事情ってのがあるから、いつもは、あんまり気にしないんだけど……ちょっとだけ、訊いて良いかな?」

「あ、はい」

 うん、ごめんね。

 と、薫ちゃんはもう一度断って、訊きにくそうに話す。

「春陽ちゃんって、紫音ちゃんの新しい彼女?」

「いえ!
 とんでもない!
タダの……」

 ……タダの生徒です!

 と言いかけて、口を閉じる。

 内緒、内緒。

「……タダのウリ、の子?」

「え……あ……」

 薫ちゃんに言われて思いだした。




 ……そう、だった……






 わたし……







 紫音に百万円で買われた……







 ウリの……







 分厚く膨らんだポケットが、悲しい。







 わたしと紫音の関係は。








 先生と生徒でさえなかったんだ。