わたしの知っている村崎先生は。

 村崎先生は……うううんと、どんな人だったっけ?

 そうそう。

 よれよれのネルのシャツに、ジーパンで。

 いつも授業の資料を紙袋に下げて、廊下をぺたぺた歩いている……

 こんな風俗系の立ち並ぶ街より、秋葉原あたりにいたほうがよっぽど似合っていた。
 
 そして、一度も大声を出した事の無い、印象の薄い先生だったはずだった。

 なのに。

 今は、この。

 黒豹や、虎のような……猫科の獣みたいな危ない感じのする、黒い服が良く似合う。

 顔も、良く見れば。

 なんで、今まで誰も騒がなかったのが不思議なぐらい、整って見えた。

 特にその瞳が、印象的で。

 ネオンの光の反射のせいなのか。

 普通の黒い瞳には見えなかった。

 深い蒼に……いや。

 ともすると、紫かがって見える。

「いいか? ここは人ごみがキツくてタク一台捕まらねぇ。
 守屋の家まで……は、さすがに無理だが、近くの駅までは送ってやる。
 それで、お前はまっすぐ帰れ。
 もう二度と来るなよ、こんなとこ!」

 いつもと格好は違う、とはいえ見慣れた先生に会い。

『家』っていう言葉に一気に緊張が解けたのか。

 わたしの膝が、突然がくっと砕けた。