「昔から。
 おとぎ話の世界で、悪い魔法にかかった奴は。
 お姫様のキスで魔法が解けることになっていたな……」

「紫音って、カエルの王子様?
 ううん、どっちかっていうと、眠れる森の美男?」

 昔読んだおとぎ話を思い出しながら、わたしは首をかしげた。

 たしか。

 魔法使いの呪いで、百年間眠りについてたヒトの話があったっけ。

 それを、キ……キスで、目覚めさせる話が……

「それを言うなら『美女』だろ?
 守屋は、オレをカエルや女にしたいのか?」

 紫音は、あきれたようにため息をつくと、紫色の瞳で、ぎらりと睨んだ。

「オレは……
 ……野獣だよっ!」

「きゃっ」

 紫音は、がばっと起き上がると。

 両脇に手を入れて、わたしを高々と持ち上げる。

 そして、そのまま。

 わたしを抱いてステップを踏むと、キレイに一回転した。

「あんたは、オレの美女だ。
 守屋……!」

 そして。

 紫音は、わたしの瞳を覗き込むように見ながら、ゆっくりと降ろして言った。

「……もう一度……
 守屋が、今度は唇にキスをしてくれたら。
 オレは……魔法が解けるような気がするよ」