危険な瞳に恋してる

「守屋……春陽。
 あんたのコトが、好きだったよ」

 紫音が。

 わたしを追い詰めるように、近づいて来る。

「……愛してた奴が、死んで……
 ……もう、だいぶ経ったのに……ちっとも割り切れなくて。
 何もかもが……特に、心が保たないと思っていたときに、あんたのコトを見かけたんだ」

 紫音は、わたしを壁の隅まで追いやると、右手首を掴んで、ぐぃと引き上げた。

「雨の日……だった。
 あんたは、箱の中で鳴いている、黒い捨て猫を抱き上げてた。
 泥で汚れていたのに……
 道行く奴らは、皆。
 猫に気がついていても、無視していたのに……
 今にも死にそうな。
 小さな声を、あんただけが、聞いていたんだ」



 ……らいむを、拾った時だ……

 あの時、気がつかなかったけれど。

 この人は、どこかでわたしを見ていたんだ……!



 紫音に掴まれた手首が悲鳴をあげた。

 何とか、少しでも楽になろうと、右手首に左手を添えようとすると。

 今度は、左手首も掴まれて、そのままソファ・ベッドに押し倒された。

「や……ん……」

 やめて、という言葉は。

 口付けの前に、沈んだ。

 それでも。

 紫音のキスは。

 こんな事になっても、やっぱり優しい……

 ……とろけるような味がする。