誘拐犯と人生ゲーム




「!」



突然、何の前触れも兆しも予兆も予測も遠慮もなく、後ろからふわりと抱きしめられた。




薬品と、血の匂い。




「有り難う、一葉ちゃん。大丈夫、ご飯一緒に食べるから片付けなくていいよ」



「何だ、気付いてたんですか。だったらもっと早く言って下さいよ」



「ごめんね。一葉ちゃんの声を聞いてたかったんだ」



ルカさんは私の肩に顔を乗せた。息遣いが聞こえる。近いなぁ。



「……っ!」



いきなり首筋を舐められた。ぞくぞくと鳥肌がたつ。気持ち悪いわけじゃない。怖くもない。



かといって嬉しいわけでもないし……。



「噛んでいいかな?」



「駄目です」



「……キスは?」



「拒否します」



「じゃあ舐めていい?」



「いいわけないでしょう」



「一葉ちゃん冷たい」



「いいえ、普通の反応です」



「一葉ちゃん、好き、大好き、愛してる。一葉ちゃんがご飯がいい」



「その犯罪は御免こうむります」



「じゃあ我慢する……」



「じゃあご飯食べに行きましょう」