自分が憎いと思った相手は――
「シキ、ミ」
僅かな隙間からは血が吹き出た様子はない。
彼女が無事なことは安堵すべきなのに、喉が張り裂けそう。
「……、……!」
叫ばないではなく、叫べないだった。
声が掠れる。
砂が喉を埋めていく感覚。
叫びたかった。
「――」
“どうして”
「――!」
“なんで”
声がなければ返ってこない。だから嫌な想像ばかりが働く。
騙された、裏切られたと。
己を謀った女が、“憎い”――
「……!」
もうここにはいられないとアガトが飛び去ったのは当たり前とも言えよう。
憎めば、殺してしまう。
「そんな、の……」
嫌だ。
「シキミは、俺の……」
恋人で。
「俺は……!」
愛されていた。
「……、のに」
そのはず、だったのに――


