(二)
シキミの住む世界とアガトの住む世界の違いと言えば、時間があるかないか。
前者があるとなれば、後者はない。
アガトの世界はいつも止まったまま、昼夜などの区別がつかない、強いて言えば、夕暮れと名のつく風景のまま止まっていた。
赤と黒の混濁。
太陽も月もなく、いつもどこからか血の匂いがする世界は住み慣れた故郷だというのに。
「俺、実は人間なんじゃないんだろうか」
この世界よりも、シキミがいる世界が心地よいと思う身がぼやく。
言ったあとに我ながらバカなことを、と頭の角に触れてみる。更には背中の羽をばたつかせて、人間とは似ても似つかない部位があることに――
「これを取ったら、人間になれるかな」


