「はあ。惚れた方の負けとは言うけど、ワタクシ、女恐怖症になりそん」
「ならばさっさと私の前から、消えてくださいよ。そろそろ、アガトを呼びたいので」
「そろそろじゃなくて、壊れた男思い出して、下半身がウズウズ――ごめんごめん、ワタクシが悪かったからん、ポットでピッチャーの真似事しないでん」
「『ピッチャー』?」
「そうやって、物を投げる人のことん。ああ、こっちじゃそんなスポーツもないのよねん」
「相変わらず、色んな世界を回っているようで」
「ホームレスだからねん、ワタクシ」
好き放題なのさん、と口笛でも吹くような顔で、男は立ち上がる。
「じゃあねん、絶倫の魔女」
ポットが投げつけられても、それは不発。的を外したわけではない、的が消えたのだ。


