「大切な人」
つま先立ちで、アガトの唇に舌をねじ込む。
アガトの口腔に広がる血の味、息をするために必要な命綱を与えるくせして、彼女の舌使いは息をさせてくれない。
「しき……っ」
その細い腰を抱き、今にも混じり合ってしまうほどに体を寄せた。
そのシキミの愛情表現こそが、自身の形を保つ命綱だと、アガトは彼女を離さなかった。
血の味が唾液の味に変わる。いつの間にか、舌はシキミの口腔を貪っている。
もっと欲しい、いっそこのままでいい。
安心、できるから。
「シキミに、捨てられたくない」
唇を離した後も、糸を引く唾液。細い糸は、彼の声で切れた。
「捨てるぐらいなら、殺してほしい」
今なら殺されても、笑って逝ける気がするから。


