(五)
「何だか、いつもと違いますね」
いつもと同じ笑みを浮かべて、シキミは言う。
「これは、シャワーを先に浴びなくちゃいけませんね」
「……」
「“アレ”の血、臭いですから」
その血を被るアガト。汚れた服を着ていては辛いだろうと、シキミはアガトのシャツのボタンに手をかけた。
「……、シキミ」
彼女の手が第三ボタンまで外したところで、アガトは口を開いた。
「こいつ、シキミを愛していた」
こいつ、の部分で、アガトは右手をごと――“ノエマ”を掲げた。
ぶらんと、荷物ほどに小さくなったその物体。
首から下はなく、首から上のみの、ノエマの一部。
髪を掴み、顔を、彼女に晒す。ノエマの一部で、“これ”を持ってきたのはこのためだった。


