すずらんとナイフ





いつものように朝早くラウンジに出勤したすずは、テーブルクロスを取りに行く事もせず、そのまま奥の厨房に入った。


持ってきたペーパーバッグをステンレスのテーブルに置くと、次にラックの上段から紙コップをひとつ取り出した。

冷蔵庫を開けてアイスコーヒーのパックを取り出し、その紙コップに注ぐ。


いつもやっていることだ。
機械的な動きだった。


ペーパーバッグの中から、昨夜摘んだすずらんの花束を取り出し、アイスコーヒーの入った紙コップに挿した。


すずらんの爽やかな芳香が漂い、すずはその香りを深く吸い込んだ。


冷蔵庫を開けてアイスコーヒーの紙パックを戻し、その横に、紙コップに挿したすずらんを置く。


冷蔵庫の扉を開けたまま、しばらくそれを見詰めた。


願いを込めた。


「…あの女を懲らしめて下さい」


休憩時間に飲み物を冷蔵庫から取り出すのは、いつもすずの役目だ。


ゴールデンウイーク開けの月曜日の今日、来場者は少なかった。


そして、今日は史歩がシフトに入っている。あとは沢田と矢崎結子。


史歩はいつも休憩時間にアイスコーヒーを飲む。
冷蔵庫から出す直前に誰にも見られないよう素早く、すずらんの花束を紙コップから外そう。


ラウンジの準備がひと段落したら、
【毒のアイスコーヒー】を飲ませるつもりだった。


もう一度願いを込めた。


「…ナイフよりも効果がありますように」と。