恰幅の良い営業二課の部長と痩せぎすの課長がアメリカからの顧客三人を伴い、ラウンジに現れたのは、午後1時過ぎのことだった。


席を案内する為に理香が先導し、部長に続いて課長、白人の顧客の三人、最後に勇希が「いらっしゃいませ」と言いながら頭を下げるすずたちの前を通って行く。


部長は自前のスーツだけれど、課長と勇希は、会社のユニフォームであるダークグレーのジャケットに臙脂のネクタイを締めていた。


このラウンジを利用する課長以下の社員は、この野暮なジャケットとネクタイを着用する決まりだった。


自社の人間と取り引き先の顧客を完全に区別するためだ。


営業二課の課長・宮坂は、先月、仙台支店から異動してきた四十代後半の見るからに神経質そうな男だ。


彼の直属の部下である理香は彼について
、「宮坂課長は細かいところまで見ている人だから気を付けて下さい。
私語は厳禁よ」と朝礼で言った。



六人掛けの席に営業二課の二人は並んで座り、その向かいに顧客達三人が座った。

一番奥に座るアメリカ人の隣に、勇希が椅子だけ持ち込んで座る。


顧客と社員が着席するやいなや、コンパニオン達が松花堂弁当と味噌汁、リクエストされた瓶ビールやグラスをテーブルに手際よく並べる。

勇希の前には、水のグラスだけしか置かれなかった。


彼らは食事をしながら、勇希の通訳で談笑していた。