ジャラジャラと麻雀牌を整理する4人を眺めながら、俺は手近にある机を2台引っ張ってきてくっつけた。



「はい、大吾」

「おう」


啓一が教室の隅に置いてあった麻雀用のマットを俺に手渡す。机の上にマットを引けば、雀卓の出来上がり。



「日比野、永野。杉山と波多野と交代」



ユウ先輩が右手の人差し指をくるくる回して言った。


「波多野は杉山に、今の敗因を詳しく教えてやってくれ」


「御意ですっ」



ユウキちゃんは軽快に応えると、小さな右手でぴしっと敬礼した。



「またユウキの麻雀講座かよォ…」

「文句言うんじゃない。お前が上手くならなきゃ麻雀にならないだろうが。倍満の価値が下がる」


ぶつくさ文句をたれる直紀を諭すユウ先輩。確かにな。



あの場面でソーズを捨てるのは、4番打者にスーパーボールを下から放ってやるようなもんだ。



そんなボールを場外までぶっ飛ばされても、文句なんて言えやしないだろう?



「なんで俺ばっかり高い手にフリ込んじゃうんだろ…」


「それを今から教えてあげるんだってば。さ、行こう直紀くん」

「ヘイヘイヘイ…」

ユウキちゃんに手を引かれて、めんどくさそうに俺と啓一が用意した雀卓に向かう直紀。



それを見て顔を見合わせる俺と啓一、と、ユウ先輩と進。



直紀、お前本当にバカだよ。



気付いてないのか、
本当に?



「…あんなに分かりやすいのにね」

ボソッと啓一が呟いた。

「…まだ若い。ゆっくり愛を育めばいいんじゃないのか」

俺がそう言うと、啓一はにこりと笑ってさっきまで直紀の座っていた席についた。




ちなみに、分かりやすいってのはこういうことだ。



直紀に話しかけるユウキちゃんは、



何か顔が赤い。
いつも。



あのバカさが母性本能でもくすぐるってるのかな?


「日比野、始めるぞ」

「あ、すみません」


ユウ先輩の声で我に帰った俺も、残った席に座って雀牌の整理を手伝った。



「これでマトモな麻雀ができるな」


進がやれやれ、と皮肉たっぷりに言った。


「お前も波多野に満貫フリ込んでたじゃないか」


「う…それを言わないでくださいよ」


ははっ、と笑みをこぼしたユウ先輩が牌を捨てて、2回戦が始まる。