「コレってチャンスじゃねえ?100パー、オレに気があるっしょ」


 裕也は自分以外には聞こえない声を出す。しかし、その根拠のない自信とは裏腹に、なかなか声をかけれずにいた。


「紗耶…ちゃん」
「ハイ…、何です?」
「いや、その…何でもない」
「はあ…」


 紗耶はバックから何やら本を取り出して本を広げたのが、本を読んだフリをしながらちらちら裕也を見る。


 二人が出会って一年、誰かがいれば会話は問題ないのだが、二人きりだと会話が始まらない。


「お疲れ!今日暑くない?」


 二人の沈黙を吹き飛ばすかのように、川口雪奈はまるで男のようにドアを開けた。


「あ、お邪魔だった?」
「じゃ、邪魔だよ邪魔」


 裕也は強がってはいたが内心助かった気持ちの方が強く、どこか安心した。