俺がなんだと声をかけると、進は苦しそうに息をしながら言った。

「おまっ、本当に天然っつーか……腹痛え」

「だから、何がそんなにおかしいんだ」

「お前結局仙崎のこと気になってんじゃねえかよ。なんだかんだ言って心配してるし」

「なっ……!」


かあっと、顔が熱くなる。

「そ、そんなわけないだろ! 俺が昴を……!!」

「いや、なんでそんな否定すんだよ。そんなに有り得ないか? たしかに変態だけど、悪いやつじゃないだろ。綺麗だし」


俺はうっと言葉をつまらせた。

有り得ない、わけではない。



本当は、どこかで昴を思う気持ちがあるのかもしれない。俺だって少女漫画の天然ヒロインじゃないし、それくらいの気持ちはわかる。

だが、どうしてもその気持ちを否定するものがある。





――昴の過去だ。


人殺しだから、って理由ではない。それは未だに信じられないし、実感がない。何より今は関係のないことだ。



その過去ではなく、もう一つの方。


俺と出会った、約束をした日だ。


あの時の俺は、一人だった自分に嘘をつくために昴を選んだ。昴がいるから俺は一人じゃない、そういう理由で。

もしそれで昴が俺を好きになったというなら、それは違うのではないのだろうか。俺のせいで、昴は勘違いしているのでは……。


俺は最低だ。俺に昴を好きになる資格はない。








「……少し、距離を置こうと思う」


ぽつりと呟く。



「仙崎と? お前どんだけ認めたくないんだよ」

「いいんだ、もう決めた。気持ちを整理したい」

「まあいいけど……、気を付けろよ。仙崎とられちまうぞ」

「蓮華なら大丈夫だ。あいつに負けるつもりはない」


そう言いながら俺は立ち上がり、昴の元へと向かった。














「(……仙崎狙ってんのは蓮華だけじゃないんだけどな)」