「そのあと兄と私は親の残したお金で二人で暮らしました」


もうすぐ終わるこの話に、俺はなんと言えばいいのだろう。

なんと言えば、昴を悲しませずに済むのだろう。




「ついでに。お察しのとおり、この包丁は犯人を殺害した包丁です。警察から頂きました」

「頂いた?」

「証拠となりうるものは処分されますが、兄が盗んできてくれて」

「頂いたんじゃなかったのか、軽く犯罪だぞオイ」


兄妹そろって手癖が悪いな。


昴は持っていた包丁を、太ももにあるホルスターにしまった。

ホルスターとは、刀の鞘みたいに、銃をしまうものだ。

だが、包丁をしまうために少し改造されているみたいだった。


まあスカートをめくって太ももを露出しているから、よく見てないけどな。


「太ももくらい見てください。将来の妻の体なんですよ」

「誰がだ馬鹿者。女の体をジロジロ見るなんて失礼だろう」

「なら男性の体はいいんですね」

「そんなこと言ってない!やめろ!下半身を見るな!」




……なんだか、いつも通りだな。


こいつに緊張感なんて求めた俺が悪いのか。



「…………はぁ」

「東藤さん?」

「……行くか」

「はい……、え?」



昴は不思議そうな顔をした。

理由は、俺が手を差し伸べたからだろう。



「……東藤さん」

「勘違いするな。手を繋ぐのは、お前が可哀想だからじゃない。お前が過去を話してくれたからだ」


どういうことかわからないみたいで、首を傾げている。


「だから!過去を話したことで俺とお前の距離が縮まったから、その証として手を繋ぐというか、なんというか……」

「…………」

「……俺が手を繋ぎたいだけだ」




その時、一瞬だけ。


(笑った……?)


昴の無表情が、柔らかく微笑んだ気がした。




「東藤さん?どうしました?」

「あ、いや……」


気のせいか。


俺達はそのまま、歩き出した。













自分を人殺しだと言った女の手はとても小さかった。

小さくて、弱々しかった。


「……だから、下半身を見るな」

「上ならいいんですか?」

「ダメだ」




そして変態だった。