「私は小さい頃、父と母。そして兄と一緒に暮らしていました」


感情のこもっていない声だが、いつもよりも少し早口だった。


「父は危ない仕事をしていたと聞いています。詳しくは知りませんが、何やら裏のことらしいです」

「裏?裏社会とかか?」

「えぇ」



なんだかだんだんカオスな小説になってきたな。


「ある日のことでした。私は父と喧嘩し、家出をしました。しかし、まだ小さかった私は怖くなり、すぐに家へと帰りました」


家出?

あの夢の時か?


いや、なら親は死んでるはずだ。




「家は真っ暗でした。寝ているのかと思い、親に会いたかった私は壁をつたって親の寝室へ向かいました」


ここで、昴は少し黙った。

そして俺に向けていた包丁を下ろした。


「……失礼でしたね、申し訳ありません」

「いや、いい」

というより、それはなんなんだ。

それが聞きたかったが、また昴が話始めたのでやめた。



「壁をつたっている途中でわかりました。何か濡れていると。何か液体が壁についていると。それは窓から射し込んだ月の光で何かわかりました」





















――血だったんです。





「……ち?」


「血。かなりの量でした」


「何で、血なんて……」




「……私も最初はわかりませんでした。だから余計に怖くて、寝室へ駆け込みました。そこには父と母が寝ていました」




まるで機械だ。

機械のように話を進める昴。


だが、次の瞬間。声が小さくなり、悲しみを含んでいるようだった。



















「二人は死んでいました」