「……ここか……」


超がつく高層ビル。

ここが篠宮グループのオフィスがあるビルだ。


全体が大きなガラス張りになっていて、空をそのまま映し出すそれは、きっと晴れていたらとても綺麗だろうな、と思う。

でも、今の空はどんよりと薄い雲を張り巡らせていて。
とても綺麗な空、とは言えなかった。



「えっ……と、割烹紫呉……」


確かめるように呟いて、小さなビーズのバッグをギュッと握りしめた。
回転式のドアを押して、中へ滑り込む。
あたしを飲みこむかのように、それはなめらかに回り、少しだけバランスを崩しそうになってしまった。

瞬間、包まれる暖房独自の少し乾燥した空気。

履きなれない高めのピンヒールが、やたらと響いた。



5階程の高さまで吹き抜けになった天井。
そこから休日なのに、出勤しているらしいサラリーマン達が忙しなく動くのが見えた。


うちの会社とは作りから違うなぁ……。


そこから視線を戻すと、中央に受付を見つけた。


あそこで聞こう。



「あ、あの」


声をかけると、「はい」とニコニコと愛想のよい笑顔を浮かべて立ち上がった。


「割烹紫呉に行きたいんですが」

「失礼ですが、ご予約は」


え?

予約がいるの?

しかも、ここで聞かれるの?


「予約、してないんですけど」


でも、

と、口を開きかけた時だった。



「……失礼ですが、仲岡様ですか?」



え?