孤高の魚





「あ、おはようございます」


「お邪魔してます」


僕の挨拶と、彼女が席を立ってお辞儀をするのはほぼ同時だった。

ママはその様子を見て、安心したように小さく頷く。


「歩夢くんの、お友達かしら?」


噛むように、丁寧に、ママは彼女に尋ねる。
ママはいつも言葉の端々にも気を使っていて、独特の雰囲気の話し方をする。

さくらのママは上品で、推定65才の粋なおばあちゃんママだ。


「あ、いえ……私、兄を訪ねて来たんです。でも、兄の行方がわからなくて」


「あらまあ、お兄さんを? あ、歩夢くん、コーヒー4つね。彼女の分も入れてあげて。……へえ、そうなの」


ママは僕にそう指示しながら、彼女の話に相槌を打っていた。


僕は、仕事前の濃いめのコーヒーを入れ、カップを4つ準備しながら、二人の話に黙って耳を傾ける。