彼女の言う様に、それが二人にとってたった一つの救いであったにしても、歩太を巣食っていたのはやっぱり男の狡さでしかない。

自分の罪を、野中七海を愛する事で紛らわせようとしたのだ。
一咲さんの死と真摯に向き合えば、確実に潰れてしまう。
そう逃げていたに違いない。

尚子の妊娠を知って、僕が野中七海の叱責を求めた様に、歩太もまた、彼女を利用する事で自分の罪をうやむやにしようとしたのだ。
誰でもない、自分自身を誤魔化すために。

………


僕の言葉はもちろん声にはならなかった。
彼女が信じていた救いを、僕が取り上げてしまう事などできない。

もしかしたら彼女は、そんな男の愚かさなど、始めから承知していたのかもしれない。
彼女は幼い頃から常に姉と比べられ、自分の役割についてはいつも敏感に感じ取っていたはずなのだ。

そうでなければ、本当に歩太の愛情を信じていたのだろうか。
そもそも、歩太はいったい誰を愛していたのだ?


……わからない。