野中七海の家族や過去の話を聞くのは、もちろん僕には初めての事だった。
……だからだろうか。
彼女の話はどこか、現実感を伴わない。
目の前の彼女は、例えば監視役だとか橋渡しだとか、そんな陳腐な役割を担うとは思えなかった。
それもまた、僕にとって彼女が特別な存在だからだろうか。
………
「子供だったの、わたし。
でも、その自覚がなかったわ。
まるでスパイ気取りだったのよ。
だからわたし、一咲がいなくなって半狂乱になったパパに、嘘をついたの。
一咲とアユは、西の方へ行ったって」
彼女は、唇の先の方だけで微かに笑う。
その笑顔は冷たく、どこか無機質でもあった。

