……ああ、そうか。
と、僕は勝手に納得していた。
彼女が、歩太を「兄」と呼んでいた事にも、説明がつく。
彼女は煙草に二、三度口を付けた。
吸って、吐いて。
また、吸う。
その単純な作業の中で、彼女の指が微かに震え始めているのを、僕は見逃さなかった。
「パパは、一咲に何度も薬を飲ませようとした。飲ませて、眠らせて、子供を殺すつもりだったのね。
……だけど一咲は、自分から鍵をかけて、父を拒んだの。
わたしだけが、立ち入る事を許された。
……一咲は、どんどん弱っていったわ。
長い髪を弄びながら、ぼんやりとアユのいない一日を過ごしてた。
……わたしはそんな一咲を見ながら、それでも、一咲が可哀想だなんて思った事なんかなかった。
パパを怒らせたんだもの、当然の事だと思ったわ」

