孤高の魚




「……赤ちゃん?」


僕は、尚子の、少し膨らんだ下腹部を思い出していた。
膨れ上がろうとしている小さな命。

その存在は、想像を絶するほど重い責任の証だ。


「それを知ったパパは、狂ったようになってしまった。
二人を無理矢理に引き離して、一咲を家に閉じ込めてしまったの」


当然よ、とでも言うような彼女の表情。
語調も徐々に強くなる。


「とんでもないと思ったわ。
あんなに優しかったパパが、あんな風になってしまったのだから、一咲はどうしようもない罪を犯したんだって、その時わたし、そう思ったの」


プウ、と、彼女は煙草の煙を吐く。
それは白い筋になって、そうしてすぐに空気と同化してしまった。