野中七海の話は、掴める様でうまく掴めなかった。
大事な何かが、抜けている様な気がした。
それでも、僕は黙って彼女の言葉に耳を傾ける。
「だけど、そんな二人の夢は、結局、叶わなかったわ」
………
カチン
彼女が、煙草に火を点けるライター音がキッチンに響く。
同時に、開いた彼女の唇の隙間から緩やかな煙が上がった。
「しばらくして……」
スウ……ハア
彼女は煙草の煙を丁寧に吐く。
「一咲に……アユの赤ちゃんができたの」
………
そう言った彼女の、アッサリとした口調。
『赤ちゃん』
まるで、何でもない事の様に。

