「少し、ここに居て。 ……これを、ちゃんと見て。 アユニに、見てもらいたかったの」 彼女はコートをベッドの上に置くと、そう言って僕を振り返った。 「……これ?」 彼女の言う『これ』とはやはり、目の前に広がる異様な壁の光景の事だろうか。 「これは全部、わたしが今までに集めてきた、わたしの知らなかったアユなの」 部屋中の壁をぐるりと見渡して、彼女は言う。 顔色が悪い。 濡れた髪が、頬に貼り付いている。 視線はしっかりしているけれど、どこか虚ろだ。