……彼女にとって、僕の存在など、ただのそれだけなのだ。
僕が今ここで、息をして血液を循環させ身体を温め、生きているという事。
それはきっと野中七海にとっては、そう大した事実ではない。
僅かな、歩太へ通じるための「もの」の一つでしかないのだろう。
霧の様に霞ながら漂うこの部屋の歩太を、凝縮し詰め込むだけの容器。
僕の役目は彼女にとってきっと……それ以上でもそれ以下でもない。
………
そうして尚子のお腹の中では、徐々に新しい命が育ってきている。
……たった数%でも、僕の血を継いでいるかもしれない、小さな命。
その事について考えて出してしまったのなら、眠れない夜だってもちろんある。

