孤高の魚




野中七海にとって、恐らく僕は、いつも歩太の代用品でしかない。


………


食後の、半ば強制的なコーヒーだってそうだ。

『僕は歩太ではないのだから、そんなにコーヒーばかり飲まない』

にっこり微笑んで当然の様に僕にコーヒーを差し出す野中七海に、もしそんな事を言ってしまったのなら、彼女はいったいどんな顔をするだろう。

僕がコーヒーを啜る姿を、彼女はのんびりとした表情で眺めながら、その瞳には僕なんかではなく、かつての歩太の姿が映るのだろう。


それだけではない。
野中七海が僕を見る時、そこにはいつも、僕を媒体として漂う歩太の影があるのではないだろうか、と僕は疑う。

それはいつも、多分、必然だ。