赤みのない白い頬。
汗で首筋に張り付いた黒い髪。
細く、すぐにでも闇に溶けてしまいそうな腕。
虚ろな瞳。
その視線はやっぱり、ここにいる僕を捉える事はない。
そんな彼女の姿はまるで、歩太の面影を探してさ迷う亡霊の様だった。
時々耳を済ませば、彼女のか細い声が、途切れ途切れに歩太の名前を呼ぶのが、彼女の小さな唇から漏れてくるのが聞こえる。
それは呪文の様に強く、蚊の羽音の様に弱い。
………
そんな時でも、僕は無言のまま、彼女が部屋へと消えて行くのを見届ける事しかできない。
野中七海の小さな背中が揺れながら、ドアの外へと消えて行くのを待って、すっかり冷えてしまったキッチンの床を、僕は彼女を抱き締める代わりに足の裏でギュッと踏みしめる。
足の裏が、寒さと虚しさで凍えるよう痛い。
そんなやりきれない夜が、今までに幾度かあった。

