「そうかな」 野中七海は視線を落としたまま、そうキッパリとした口調で言った。 その口調は強いけれど、尚子のそれとはまるで違う。 「わたしには、そうは、思えないけれど」 そう呟く野中七海の一つ一つの言葉は、とても重々しい響きを伴って、テーブルの上に転がるように落ちた。 「……わたしがあの部屋を見た限り、アユは全てを置いて行ったの。 アユの持っている、多分ほとんど全部。 ……それって、気紛れなんかでできることじゃないわ。 何もかもを捨てるなんて、きっとすごく、決意のいる事だもの」