夕方、僕は昼休みの内に作っておいた合鍵を大切にポケットに入れ、急ぎ足でアパートへ帰った。

途中、尚子から携帯に電話があったけれど、面倒なので出なかった。

僕は余程の事がない限り、電話に出ないような真似はしない。
けれども野中七海を寒いドアの外で待たせるのは、今の僕には「余程の事」であるように思えた。


………


すぐに僕のズボンのポケットが再び震え出し、尚子からのメールが入る。


「件名:なし

今日はもういいけど
明日はちょっと付き合って

また電話する」


尚子からのメールにしては、あまりに簡潔だったので僕は驚いた。

何かあったのかな、と少し慌てもした。
かけ直そうかとも思ったけれども、やっぱり止めた。
明日でもいい話なら、野中七海を待たせる必要はない。