「はい……。今日入学式です」
先生か。じゃあいいか、と、私はタオルを借りた。
濡れた太股をチラチラ見せながら、脚を拭いた。
これだけアピールしておけば、記憶に残るだろう。
やった!やった!
これからの高校生活が、楽しくなりそうだな、と思えた。
久しぶりに、胸がドキドキしたのだ。
それは、お兄ちゃん以来の、恋だった。
「僕も新任だから、これからよろしくね」
新任?
そうか。だから、若いんだ。
「じゃあ、先生も一年生なんですね!」
少しはしゃぎ気味の私に、苦笑いしながら、
「ははっ、先生も一年生か。まさにその通りだ」
と言った顔は、
照れ笑いにも見えた。
先生、かわいいっ!
「お、雨あがったぞ。乗って行くか?」
先生の車は、黒のJEEP。
乗りたい!が、しかし、
「母が待ってますので」
「ああ、そうか!じゃあ、早く戻ってあげないと」
「はい!じゃあ、ありがとうございました。これから、よろしくお願いします」
私はタオルを持ったまま、そう言った。
「こちらこそ」
その笑顔は、もう苦笑いでも照れ笑いでもなかった。
その、素敵な大人の笑顔に、
完全にやられてしまった。
その日、帰宅してから、すぐにタオルを洗濯し、乾燥機で乾かした。
柔軟剤でふわふわの仕上がり。
翌日、それを職員室へ返しに行き、
私は先生の心を確実に掴んだ。と思う。
「沢田瑠璃子さん、君は、何組なの?」
「はい。3組です」
「おう、今日授業があるじゃないか。楽しみだね」
「いいえ」
「!?なぜ?」
「ニガテだから。化学は」
「そうか。きっと得意になるよ。俺の授業を受ければ」
「ほんとに?」
「あっ、いや……そう言われると自信ない」
フフ……。思わず笑ってしまった。
実は理数系、得意。
