その後、若い頃の恋はいくつかあったが、
はしょります。
時は流れ、一気に29歳。
その日、私は仕事仲間との飲み会があり、駅前にいた。
裕太が迎えに来てくれることになっていたので、指示された場所で待っていた。
そこは、大通りに面していたが、時間が時間なだけに、人も車も少なかったので、
私は、少々酔っていたこともあり、鼻唄を唄いながら待っていた。約束の時間まで、まだ5分以上あった。
すると、ダダダーッとこちらに向かって走ってくる男性がいた。
え、え、何だろ。
なに、私〜〜!?
私の前で止まり、膝に手をついて、ゼーハーゼーハー荒い呼吸音を立てていた。
「大丈夫ですか?」
呼吸が整ってきたところで、そう尋ねると、
「あの、携帯を……ハァ」
まだ息切れしている状態で。
「貸してもらえませんか?」
「えっ?」
薄暗い街灯や、時折、過ぎて行く車のライトに照らされる彼の顔は、色白で、美少年俳優の誰かに似ているな、と思った。
「携帯を?貸せません!」
どんなイケメンでも、それはダメだろう。大事な電話をそのまま持ち去られては困るし、電話番号を悪用されるのも嫌だ。
「実は……友達の車に、携帯と財布を、忘れてしまって……。どうしても、連絡をとりたいんです!早くしないと……新幹線が……」
そういう事情なら、と
私はバッグの中に手を入れた。
「ごめんなさい。やっぱり携帯は貸せないけど、これで。駅の中に公衆電話がありますから」
ありったけの小銭を渡してあげた。190円……私の手持ち小銭、少なっ!!
でも、間に合うだろう、きっと。
「ああ〜、ありがとう!ほんとにありがとう!ではまた!!」
満面の笑みを見せてから、彼はまた走って行った。
