「いいって」
「ダメだって!」
「奢る。今日は」
「さっき奢らないって言ってた」
「でも奢る。気が変わった。俺バイトしてるし」
「……そう?ほんとにいいの?」
「今日、悪かったな。変なとこ連れてって」
「それは違う。私が一緒に来てとお願いしたことだから、涼は悪くない」
テンポよく言い合ったあと、涼は私を見下ろしながら
「奢るから、いいよ。ただし、今日だけな」
と言った。
川の反射を受けた涼の端正な顔は、ひときわ輝いて見えて、
思わず、瞳を逸らしてしまった。
「ふっ、今お前、もしかして、照れた?」
「ばかっ。そんなの有り得ないからっ」
実は照れた。
めっちゃ照れた。
その、切れ長の瞳に吸い込まれそうだったなんて
絶対言えない。
今更、涼に、なんて。
私は今日、失恋して
心が乱れてるんだ。
胸のドキドキに、そう言い聞かせていた。
「ひとりで帰れるか?俺、ここから、まっすぐバイトなんだけど」
「うん。大丈夫。もう、落ち着いたし」
「そうか、じゃあ、またな」
「ウン、またね。バイト頑張って」
そう言って別れた。
が、言い忘れた〜。
「涼〜。今日は、ありがとね、それからごちそうさま〜!」
反対方向へ走って行く背中に声をかけると、
振り向きもせずに、
走りながら手を振ってきた。
見てもらえないのに、私も手を振った。
