大地主と大魔女の娘



 ルボルグ君が下から呼びに着てくれたので、階段をゆっくりと下りる。

 登るより下りる方が苦手だ。

 身体をほぼ手すりに預けて、転げ落ちないように必死に足を運んだ。

 杖はおかみさんが持ってくれ、ルボルグ君が付いていてくれるから心強い。


 そんな様子のこちらをちらり、ちらりと見上げる地主様の視線を感じる。

 正直、身の竦む思いだ。確かに気が気ではないが、今は構う所ではない。

 足運びにだけ集中する。

 一瞬見下ろした地主様はといえば、すっかり帰り支度を整えているようだった。

 上着を着込み、マントも羽織られている。

 そして手にはお菓子がぎっしり詰められた籠を持っていた。

 その可愛いものは、彼にはちょっと不釣合いだった。


「リヒャエル。先に馬を飛ばして帰ってくれ。姉上たちが心配している」


 お菓子の入った籠をエルさんに差し出しながら、地主様が言う。

 なるほど。ジルナ様へのお土産としてお求めになったのか。


「ええ、解りました。リディアンナ様もお待ちですよ、エイメリィ様。ジルナ様も館の皆も待っております」

 それを受け取りながら、エルさんがこちらを見上げて、優しく声を掛けてくれる。

 リディアンナ様? 


「え! リディアンナ、来てるって?」


 初めて耳にする名前に、それは誰かと問い掛ける前にスレン様が声を上げていた。


「しょうがないなあ。じゃあ俺も先に戻って、この格好どうにかしないとなあ」

「リディはオマエの事は呼んでいない」

「煩い叔父様だね。リディアンナも生意気だから、こんな格好見せられない。また叔父様自慢につき合わされるのはゴメンだし」


 だからじゃあ先に戻るよと言うと、スレン様はひらひらと手を振りながら店を出て行った。


「スレン。相変らず勝手なヤツ」

「色男らしいっちゃ、らしいな」

 ルボルグ君のお父さん、赤毛のおじさんが感心したように呟きを漏らす。

「その色男が一目おく、リディアンナ様というのは旦那の?」

「姉の娘だ」

「姪っ子かあ」

 ジルナ様の娘。


 私はその一言で、何となくスレン様の様子に納得した。