『ぶたれたら、痛いです』
そっと、指先で切れた唇を指し示す。
『ああ』
『ぶっても、痛いです』
続いてショール越しに頭を支えている、彼の腕に手を掛けてみた。
『そうだな』
『……痛い?』
『それほどでもない』
嘘だと思う。だってさっきから、彼から強く伝わってくるものは痛みだもの。
何だろう? 男の人というのは、こうやって強がるものなのだろうか。
大きな手のひらで頭をすっぽりと覆われて、逸らそうにも目を逸らせないので彼の瞳を覗きこむ。
不躾かと思ったが、別段お怒りではないようだ。
『カルヴィナ』
『はい』
『帰るぞ』
『いいえ』
間髪いれずに首を横に振る。
ますます彼の瞳の鋭さに射抜かれるかと思った。
『……いいえ』
それでも頑として拒否の構えを表す為に、首を横に振る。振り続ける。
何故、帰らねばならないのだろう?
そこは譲れない。でも怖い。彼の機嫌を損ねるのは、とても怖い。
睨みつけて視線だけで責めて来る、彼の放つ感情の波に攫(さら)われるのは、とてもじゃないが生きた心地がしない。
怯えて目を固く閉じて、身を縮める。浅く呼吸を繰り返す。
しばらくそうしていた。
『カルヴィナ?』
