そんな喧騒が一瞬で止んだ。
「おい、見ろよ」
誰彼と無く酒場に現れた、場違いにも程がある華奢な人影に注目していた。
相変らず人目を気にしてか、ショールを深く被っているが一目で少女と解る。
杖を突きながら、ゆっくりと俯き加減だった視線を上げた。
その途端、この場に集まった者達が息を飲む。
「あの……。」
よせ。
止めろ。
しゃべるな。
そう願ったが口にするワケにも行かない。
そんな事を口走ろうものなら、また差別だ何だと横っ面を張り倒されるに決まっているからだ。
歯がゆかった。
別に殴られる事に対しては、どうということは無い。
そのせいで、娘に要らぬ想いをさせたくは無いという気持ちの方が強かった。
心地よく吹き抜けるそよ風にも似た響きが、予想通り辺りに清涼感を撒(ま)き散らかす。
「うわあ、今日の騒ぎの噂の、お姫さんの登場かい!?」
「大のオトナの男二人を、狂わせちまったお嬢さんの登場だ」
「旦那の幼な妻のお嬢さん!」
「若いっていいなぁ、ちくしょー! 羨ましいぜ」
娘がためらいがちに何かを言いかけた途端、一気にまた騒がしくなった。
嫌な予感がして、急ぎ娘の側に歩み寄る。
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「お嬢さん! 恥ずかしがっていないで、その花の顔(かんばせ)拝ませておくんなよ!」
酔っ払って調子に乗ったオヤジの一人が、娘のショールに手を掛けていた。
「あのっ! 嫌っ、やめて!」
娘が困惑し、拒絶の声を上げたが遅かった。
強引にショールは取り払われ、娘は身を震わせて目蓋を閉じ、身体を小さく丸めてしまう。
杖が転がる音が、嫌に甲高く響くのはどうしてだろうか。
娘の頬の線を、ゆるやかに波うつ黒髪が覆った。
「!?」
(何――? 髪をどうしたという……!?)
まとめ上げられていたとはいえ娘の髪は、解き放てば背の中程までの長さがあったはずだった。
今日一番の衝撃を覚える。
娘の髪が記憶にあるよりも、遥かに短く切り揃えられていたせいだ。
気が付けばそのオヤジに一撃食らわせた後、ショールを奪い取り、娘を庇うように頭から抱え込んでいた。
