大地主と大魔女の娘



 ガン! ガン! ガン! ガン――――!

 先程と同じように大きな音が鳴り響く。


 同じように少年が鍋底を棒切れで打ち鳴らしていた。


「そこまで―――!! これ以上騒ぐなら、自警団の兄ちゃん達を呼ぶ!」

『ルボルグだ!』

『フォリウムん所のおかみも来たぞ!』


 つかみ合っていたスレンと距離を置くべく、蹴り飛ばしてやった。


 鳩尾を狙ったのだが、ヤツは腕ですかさずガードしてきた。

 それでも充分、間合いが取れた。

 さっき頭の方に一発お見舞いしてやったせいか、奴の足元はふら付き始めていた。

 反撃の威力も弱まってきているなら、勝負はもう着いている。

 そろそろこの騒ぎを収める頃合だろうと考えていたから、ちょうど良かった。

 それでもまだスレンの瞳を見れば、引く気などさらさら無いのは明らかだ。


 やや離れた所で見守っていたリヒャエルに、目配せを送る。

 リヒャエルは素早く頷いたと同時に動いていた。

 奴を後ろから拘束する。


「何のまね?」

「そこまでです、スレン様」


「もういいだろう、スレン。勝負はついたはずだ」

「嫌だ。まだだね」

「スレン。いい加減にしろ」


 顎をしゃくって、観客たちへと視線を促がした。

 皆、一様に頷き合って見せる。


「色男、もう充分闘っただろ? もうこれ以上は、よしなって」


「そうだ。無益な闘いは深追いしちゃなんねぇ! なぁ、マスター?」


 この騒ぎの中、黙々と一人カウンターで働いていた酒場の亭主は静かに告げた。


「どちらもお見事。よい、引き分けでした。次があるなら、うちの店以外の場所でお願いしますよ」

「っ……くそっ!!」

 悔しそうに毒付く奴に、いつもの取り澄ました様子は見られなかった。



「ったぁっく!! アンタ――!」


 おかみの怒声に、ばつが悪そうに赤毛の男は立ち上がった。


「アンタが付いていながら、騒ぎを起こさせて。何やってるんだい!」

「いやあ、コレはだな。嬢ちゃんを巡っての男同士の真剣勝負だからな! 邪魔せず見守ろうっていう計らいだ」


「やかましい! 昼間っから赤い顔をしている奴に、説得力も何もあったもんじゃないよ! 旦那たち、そこまでだからね。これ以上騒ぐなら他所でやりな。もっともそうするって言うのなら、お嬢ちゃんはうちで預かるからね?」

 おかみからも念を押されて、スレンも渋々頷くしかないようだ。

 わかった、わかった降参したと、両手を小さく上げて見せた。

 リヒャエルの拘束する腕をふり払うと、亭主の差し出す杯を受け取る。


「何だよ、水かよ!?」

 スレンは口を付けた途端、亭主に食って掛かっていた。

「当たり前でしょう。流血しておられるんだから、やけ酒はもう少し待ちましょう」


「誰がやけ酒だって!?」


「まあまあ、兄ちゃん! 後で俺たちが奢ってやるからよ。旦那に賭けて勝った金で」


「色男~。てめえに賭けて負けた分、こっちに奢りやがれ~!」


「ふざけるな!」

 酒場の亭主と野次馬との掛け合いのおかげか、どこか緊張も溶け始める。