「いいから、行くぞ! 立て、これ以上面倒をかけるな」
勢い良く引っ張り上げると、娘の手にしていた杖が転がった。
娘はたちどころにバランスを失い、立っていられなくなった。
己の体重を支えきれないのだから、当然だろう。
掴みあげられた左手首だけでどうにか身体を起こしている状態は、誰がどう見ても不自然極まり無い。
自分で満足に立つ事も出来ない娘に立てと、面倒をかけるなと声をかける方がどうかしている。
それでも娘は、かろうじて自由な方の右手で杖を取ろうとしていた。
恐らく俺が命じた事を実行するために。
立てと命じられたから立とうとして杖を求める。
しかし片手を男に囚われているから、右手は空を切るばかりだ。
その両脇をすくい、抱き上げようとした途端、ぱん! と小気味良い音が響く。
良い音がした。
娘から平手打ちをくらったのだ。
驚いた。
俺以上に娘の方が驚いたように、瞳を見開いていた。
「……。」
「っ!」
野次馬たちからも「おおおぉ!?」という、どよめきが上がった。
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嫌、嫌、放して、帰らない、構わないで、ちゃんとお金は返しますから。
娘は泣きながら、たどたどしくも訴えを止めなかった。
腕を引き抜こうと必死で、身を引くのも止めない。
声がかすれ始めても、止めようとしなかった。
「……悪かった。俺が悪かった。頼むから泣き止んでくれ」
そう詫びた途端、周囲からはまた感嘆の声が上がった。
いくつかの拍手とともに。
