今は停戦中とは言え、いつまた戦火が上がってもおかしくない状況の国なのだ。
何だってそんな所に向おうというのか。
娘の無謀な行動は、まるっきり自殺行為でしかない。
「馬の用意をさせろ! 俺が港まで飛ばす。リヒャエル、引き続きここで指揮を執れ。森へも念のため待機させたままでおけ。三刻しても俺が戻らないようなら、街におまえも来てくれ」
「かしこまりました。まずは、お一人で向われるのですか?」
供を付けずに行くのか、と言っているのだろう。
「ああ。その方が早い。リディアンナの遠視(とおみ)は確実だから、捜し歩く必要もなかろう。人手は他に回せ」
「私も行くわ。馬を用意なさい、レオナル!」
「お言葉ですが、姉上」
「聞こえなかったの、レオナル!? こんな気持ちにさせたまま、この子を行かせて良い訳が無い!」
髪も結わず、家を飛び出してきた姉に返す言葉が見つからなかった。
「……。」
「何とか言ったらどうなの、レオナル?」
「もちろん、このままローダリアになど行かせる訳が無い」
「ええ、そうですよね! 叔父様。もちろんですわ。ねぇ、お母様?」
リディアンナが気を使いながら、姉の手をそっと取った。
「お母様。わたくしたちでは足手まといですわ。
叔父様の乗馬の腕前をよぅくご存知でしょう?
大丈夫。叔父様はちゃんとカルヴィナを無事に連れ帰りますわ。
ですから、待ちましょう?
そうして叔父様がカルヴィナにイジワルをしないように、
見張るとしましょうよ。ああ、そうだわ。
彼女が帰ってきた時のために温かい食事と、おいしいお菓子を用意して
お待ちしましょう? ちゃんと、わたくしの事を紹介してくださいね」
娘に慰められて姉は落ち着きを取り戻したようだ。
こくんと子供のように頷いて見せた。
