「レオナル! あなた、最低っ!!」
朝一番で乗り込んできた(間違いなくリヒャエルの手配だろう)姉に張り倒された。
当然だと思う。
姉は書置きを読んだとたん、激昂した。
そして泣き出した。
それを慰めたのは、姪のリディアンナだ。
自分の母親と俺とを代わる代わる見上げる。
その深みのある鳶色の瞳にも、動揺が見て取れた。
だがそればかりではない、強さがあるのもまた確かだった。
姉によく似た、気の強さがそのまま現れたかのような切れ長の瞳は、少女を大人びて見せている。
それは彼女の瞳が、人よりも多くのものを見せてしまうせいかもしれない。
リディアンナは遠視が出来るのだ。
遠くにいる者の姿を視たり、失せ物の在りかを視たりといった稀な能力の持ち主のリディアンナ。
それはロウニア家に時折り現れる、血筋によるものだった。
無闇に能力を使ったりしない、頼りにもさせないのが彼女の決めたルールだ。
そんなリディが進んでここに来たという事は、頼らねばならない状況だと嫌でも知れる。
「落ち着かれてください、お母様。さ、そのお手紙をわたくしにお見せになって?」
姉は無言で書置きを差し出した。
代わりにという訳ではないが、俺が頷いて見せる。
「頼む」
リディアンナはしばらく書置きを眺めてから、くるくるとよく動く子リスのような瞳を伏せた。
心持ち、俯くように頭を垂らす。
彼女もまた、髪を結わずにここに駆けつけて来てくれた。
姉とおそろいの茶髪が頬をかすめ、書置きに毛先が触れる。
集中している時のリディのまとう雰囲気は、厳かで犯し難い何かがある。
姉が少女だった頃とまるで同じリディの姿は、いつ見ても不思議な気持ちにさせる。
その横顔を見つめた。
リディの邪魔をしないように、大人三人は黙り込み、待つしかない。
気配すらも押し殺すようにする以外、何の手伝いも出来ないのは不甲斐ない。
突然、リディアンナがひっと息を飲み、慌てたように瞬く。
「大変です! 叔父様、お急ぎになって。叔父様の夜露(よつゆ)はガジルールの港、ローダリア行きの船に乗ろうとしている所が視えます!」
「ローダリア、だと!?」
山一つ挟んだ隣国の名に、背筋が凍った。
